AIによるシステム開発を発注する前に知っておきたい5つの注意点
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「AIを使えば、システム開発がもっと速く、そして安くなるのでは?」
生成AI(ジェネレーティブAI)の進化は目覚ましく、システム開発の現場でもソースコードの自動生成やテストの自動化など、AIを「開発ツール」として活用する動きが本格化しています。
この「AI駆動開発」は、開発のスピードと効率を劇的に向上させる可能性を秘めています。しかし、その強力な力の裏には、発注者としても知っておくべき新たなリスクや注意点が存在します。
特に、自社システムの開発を検討している企業の担当者にとって、AIシステム開発は魅力的に映る一方で、リスクマネジメントが不十分だと深刻なトラブルを招く恐れがあります。
この記事では、AI駆動開発のメリットを最大限に享受し、思わぬ落とし穴を回避するために、AIを活用したシステム開発を発注する際に確認すべき5つの重要なポイントを詳しく解説します。
生成AIを活用したシステム開発(AI駆動開発)がもたらすメリットとは?
まず、なぜ多くの企業がAI駆動開発に注目しているのか、その具体的なメリットを整理しましょう。正しく活用すれば、これまでのシステム開発の常識を覆すほどのインパクトをもたらします。
開発スピードの向上
AIは、単純なコーディングやテストケースの作成といった、これまで多くの時間を要してきた定型的な作業を瞬時にこなします。
これにより、エンジニアはより創造的で複雑な問題解決に集中でき、プロジェクト全体の開発期間を大幅に短縮することが可能です。これにより、自社システムの市場投入を早め、競合優位性を確保できます。
品質の安定化
優秀なAIは、世界中の膨大なソースコードや設計パターンを学習しています。この知識を活用してコード生成を補助させることで、開発者のスキルや経験による品質のバラつきを抑え、一定水準以上の品質を担保する効果が期待できます。
これにより、バグの発生率を低減し、信頼性の高いAIシステム開発を実現します。
コスト削減
開発スピードの向上は、そのまま開発工数の削減に直結します。特に大規模なシステム開発プロジェクトにおいては、人件費を中心としたコストを大幅に抑制できる可能性があります。
従来の手作業中心の開発では人件費がかさみますが、AI駆動開発により、外部委託費用を大幅に低減した事例も報告されています。これは、発注者にとって最も分かりやすいメリットのひとつと言えるでしょう。
アイデアの創出とイノベーション
AIは、人間だけでは思いつかないようなアルゴリズムや、より効率的な設計パターンを提示してくれることがあります。開発の行き詰まりを打破するヒントを与えたり、新たな機能のアイデアを創出したりと、単なる効率化ツールに留まらず、イノベーションを加速させる触媒としての役割も担い始めています。
AI駆動開発で失敗しないための5つの注意点

これらのメリットは非常に魅力的ですが、その裏側にある注意点を理解し、対策を講じることがプロジェクト成功の絶対条件です。
開発パートナーとなる企業を選定する際には、ぜひ以下の点について具体的な質問を投げかけてみてください。安易に依頼するのではなく、メリットとデメリットを明らかにし、信頼できるパートナーを選ぶことが成功の鍵です。
注意点1:生成されたコードの「著作権・ライセンス」はクリアか?
パートナー企業が、ライセンスチェックツールを導入し、生成コードのトレーサビリティを確保しているかを尋ねてください。AIシステム開発では、この点がリスクマネジメントの基盤となります。
リスク
AIが生成したコードを、ライセンスを理解しないまま安易に商用システムに組み込んでしまうと、意図せずライセンス違反を犯し、最悪の場合、自社の貴重なソースコードの公開義務を負うといった、事業の根幹を揺るがす深刻な事態に繋がりかねません。
確認ポイント
- 「AIが生成したコードのライセンスは、どのように確認し、管理していますか?」
- 「商用利用が許可された、あるいはライセンス侵害のリスクがないと保証されたAIツールを利用していますか?」
- 「万が一、ライセンスに抵触するコードが発見された場合の対応プロセスはどのようになっていますか?」
注意点2:自社の「機密情報」が漏洩するリスクはないか?
パートナー企業が、プライベートAIモデルやエンタープライズ版のツールを使用しているかを確認しましょう。AI駆動開発の効率化を追求する中で、セキュリティを犠牲にしないことが重要です。
リスク
開発中のソースコードや、システムで扱う顧客データ、社外秘の業務ロジックといった機密情報を、セキュリティ設定が不十分なパブリックなAIサービス(例えば、一般的なChatGPTの無料プランなど)に安易に入力してしまうと、その情報がAIの学習データとして利用され、意図せず外部に情報が漏洩するリスクがゼロではありません。
一度学習されてしまうと、取り返しがつかない事態になる可能性があります。
確認ポイント
- 「機密情報や個人情報を含むデータを扱う際、どのようなAIサービスを利用しますか?」
- 「入力した情報がAIの学習に使われない設定が保証された、セキュアな環境で運用していますか?」
- 「開発者個人の判断で安易にパブリックなAIサービスを利用しないための、社内ルールやガイドラインは整備されていますか?」
注意点3:AIの「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」を鵜呑みにしていないか?
人間とAIのハイブリッドアプローチを採用しているかを尋ねてください。AIシステム開発では、AIを過信せず、人的検証を徹底することがリスクマネジメントの要です。
リスク
AIは、時に「ハルシネーション」と呼ばれる、事実に基づかないもっともらしい嘘の情報を生成することがあります。システム開発の文脈では、一見すると正しく動作するように見えるものの、セキュリティ上非常に脆弱なコードや、特定の条件下で深刻なバグを引き起こすコードを生成してしまうケースがこれにあたります。
これを専門家がレビューせずにそのまま利用すると、システム全体の品質低下や、サイバー攻撃の標的となる深刻なセキュリティホールの原因となります。
確認ポイント
- 「AIが生成したコードは、必ず経験豊富なエンジニアがレビューする体制になっていますか?」
- 「AIはあくまで“コーディングアシスタント”として位置づけ、最終的な判断と責任は人間が負うという認識が徹底されていますか?」
注意点4:システムが「ブラックボックス化」する危険はないか?
パートナー企業が、コードの説明責任を明確にし、ドキュメント化を標準プロセスにしているかを確認しましょう。これにより、持続可能なAIシステム開発を実現できます。
リスク
AIが生成した複雑なロジックやアルゴリズムを、開発担当者が完全に理解できないまま「とりあえず動くから」という理由で採用してしまうと、将来の仕様変更や機能追加、障害発生時のメンテナンスが極めて困難になる「ブラックボックス化」を引き起こします。
これは、「特定の担当者にしか分からない」という従来の属人化とは質の異なる、「AIにしか分からない」という新しい形の属人化リスクを生み出す危険性があります。
確認ポイント
- 「AIを利用して開発する場合でも、コードの可読性やメンテナンス性を担保するために、どのようなコーディング規約やルールを設けていますか?」
- 「AIが生成したコードについても、人間が理解できる形での設計書や仕様書といったドキュメントの作成は徹底されていますか?」
注意点5:最終的な「品質と責任」の所在は明確か?
AI駆動開発の成功は、責任の明確化にかかっています。パートナー企業が、包括的なテストフレームワークを有しているかを尋ねてください。
リスク
万が一、納品されたシステムに不具合やセキュリティ上の問題が発覚した際に、「これはAIが作ったコードなので…」という言い訳は、ビジネスの世界では一切通用しません。
AIの利用はあくまで開発プロセスの一部であり、最終的な納品物に対する品質保証責任は、開発会社が100%負うべきです。この責任の所在が曖昧なままプロジェクトを進めるのは、極めて危険です。
確認ポイント
- 「AIの利用有無に関わらず、納品物に対する品質保証体制(テスト計画、第三者による脆弱性診断、受け入れ基準など)は明確に定義されていますか?」
- 「成果物に対する瑕疵担保責任の範囲と期間について、契約書で明確に合意できますか?」
【イーポートの取り組み】スピードと安全性を両立するために
私たち株式会社イーポートは、AI駆動開発の強力なメリットを深く認識し、お客様により良いシステムを迅速に提供するため、生産性向上のための最新技術を積極的に取り入れています。
しかしそれは、今回ご紹介したリスクを熟知し、万全の対策を講じていることが絶対的な大前提です。「スピードのために、安全性を犠牲にしない」それが、私たちの開発における揺るぎない哲学です。
① 安全なツールの利用と情報管理の徹底
お客様の大切な機密情報を守るため、入力データが外部の学習に利用されることのない、Amazon Web Services(AWS)といった大手クラウドベンダーが提供するセキュアなエンタープライズ向けAIサービスを標準で活用します。
さらに、より高度なセキュリティ要件が求められる場合には、お客様専用のプライベートクラウド環境にAIモデルを構築し、外部から完全に隔離された環境で開発を行うことも可能です。これにより、情報漏洩リスクを根本から遮断します。
② 人間とAIによるダブルチェック体制
私たちは、AIを「優秀な副操縦士」と位置づけ、必ず経験豊富なエンジニア(機長)による厳格なコードレビューを必須としています。
AIが提示したルート(コード)が、目的地へ至る最短ルートであったとしても、その航路に危険がないか、ロジックの正当性、パフォーマンス、そしてセキュリティの観点から、人間の知見で厳しくチェックする体制を構築しています。
③ 機械的な脆弱性スキャン
人間の目によるレビューに加え、AIが生成したコードを含むすべてのソースコードを、SAST(静的アプリケーションセキュリティテスト)ツールなどで機械的にスキャンし、潜在的な脆弱性を網羅的に検出します。人間と機械の両面から品質を担保することで、見落としのリスクを最小限に抑えます。
④ セキュア開発プロセスの標準化
私たちは、AIを利用する場合でも、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が示す「安全なウェブサイトの作り方」の指針に準拠したセキュア開発プロセスを徹底します。
AIはあくまでプロセスを効率化するツールであり、開発プロジェクト全体のセキュリティ基準や品質基準を揺るがすことは決してありません。
⑤ 継続的なエンジニア教育
技術の進化は日進月歩です。私たちは、エンジニアがAIを正しく、安全に使いこなすためのスキルアップ研修や情報共有会を定期的に実施しています。エンジニアがAIに“使われる”のではなく、常にAIを“使いこなす”プロフェッショナル集団であり続けるための投資を惜しみません。
まとめ:AI駆動開発の成功は、信頼できるパートナー選びから
AI駆動開発は、正しく使えばシステム開発に革命をもたらす強力な武器です。開発期間の短縮、コスト削減、品質の向上など、その恩恵は計り知れません。
しかし、その注意点を理解しないまま安易に導入すると、ライセンス違反によるソースコード公開リスク、機密情報の漏洩、深刻な品質低下といった、取り返しのつかない事態を招きかねません。
発注者として本当に重要なのは、目先の開発費用や納期だけでなく、開発パートナーとなる会社がAIのメリットとリスクを正しく理解し、それを管理・統制する適切な体制と深い知見を持っているかを見極めることです。
株式会社イーポートは、最新技術の活用による「スピード」と、長年の経験に裏打ちされた「安全性」を両立する開発体制でお客様をサポートします。AIを活用した最新のシステム開発手法について、ご興味やご不安な点がございましたら、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人

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